鯛焼きを供え彼岸を終えにけり     須藤 光迷

鯛焼きを供え彼岸を終えにけり     須藤 光迷 『合評会から』(番町喜楽会)  新聞記者のOBが中心になって立ち上げた句会だから、時にこんなコメントが飛び出してくる。  ――私が警視庁担当記者の頃だから、もう何十年も前のことです。ネタ(新聞記事の材料)を取るため、毎晩のように「夜回り」をしていて、警視庁のある人のお宅にも通っていたんです。その家ではお婆さんが、息子さんの帰りを待っておられる。お婆さんが亀戸天神の前の鯛焼きが大好きだと知ってからは、そのお宅には必ず、鯛焼きを買って持って行く。息子さんが帰ると、お婆さんが「また鯛焼きを頂きましたよ」と報告する。そのためではないと思いますが、何度かネタを頂戴しましたよ。この句を見て当時のことを思い出し、一も二もなく選ばせて頂きました。その警視庁の人? 後に警視総監になりました――  合評会での長い発言は普通、要点だけに刈り込んでしまうのだが、今回は特別。実はこの先まだ話の続きがあった。発言者は、お婆さんが亡くなった後も彼岸などに鯛焼き持参で、お線香を上げに行ったという。なお、別の選者から「鯛焼きによって、句にリアリティが生まれた」という発言があった。(恂)

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