没日中峠より見ゆ大辛夷     大下 綾子

没日中峠より見ゆ大辛夷     大下 綾子 『この一句』  「没日」をどう読むか。「いりひ」の例はかなりあり、調べてみたら「秋没日(あきいりひ)」という季語もあった。しかし一般の辞書に載っているのは、「ぼつにち」「もつにち」と読む言葉だけである。この句の得点が少なかったのは、「いりひ」と読めた人が少なかったからではないだろうか。  前句に続き東京の名園、六義園吟行の作である。園内には歌枕(和歌に詠まれてきた名所)になぞらえた場所が各所に作られていて、その一つが藤代峠。高さ十五辰曚匹涼杙海榔狷皸賈召寮箙イ慮晴らし台になっていて、句は実在の峠から夕陽に映える満開の大辛夷を眺め下ろすかのように詠まれている。  吟行の句と知らない人は、どこの峠なのか、と思うはずだ。しかし作者は敢えて、そのように詠んだのではないだろうか。実景を庭に写した風流人の遊び心を逆用し、庭をあたかも実際の風景のように・・・。私はとても面白い句だと思った。もし「没日」にルビがあれば、多くの支持を得たかも知れない。(恂)

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