やはらかな一雨去って初桜     嵐田 双歩

やはらかな一雨去って初桜     嵐田 双歩 『季のことば』  作者は「初桜」という季語を一度使いたいと思って、じっと機会をうかがっていたのだそうである。折柄、やはらかに辺りを濡らす春雨があった。その翌日、なんと咲き出した。  今年の東京の開花宣言は三月二十一日で、句会のあった十六日にはソメイヨシノは未だだったが、彼岸桜はじめ何種類かの桜が十日頃から咲いていたから、ウソをついたわけではない。句会合評会でも「これは実感です。昨日今日まさにこういう情景でした」(弥生)、「この句が季節感を一番よく出している」(正市)、「読んでほっとする句。心にしみ込んでくる春雨と初桜がぴったり・・」(十三妹)と絶賛を博した。作者の熱意が実ったクリーンヒットと言えよう。  「花」と言えば桜を指すように、日本人のこよなく愛す花の女王である。「初花」(初桜)に始まって「若桜」「遅桜」「姥桜」を経て「花の名残」(残花)、「花惜しむ」「落花」(散る桜)、「花吹雪」と、咲き始めから散るまで追い続ける。そして、散ってしまってからも「桜蘂(しべ)降る」と蘂が降りそそぐ風情をも詠もうとする。作者には順を追って詠んでいただこうか。(水)

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