龍天に背伸び競ふやチューリップ     澤井 二堂

龍天に背伸び競ふやチューリップ     澤井 二堂 『合評会から』(日経俳句会) 臣弘 かわいらしい句だ。チューリップが一生懸命伸びている様子がわかる。 守 龍天に登るという言葉に対して、片やチューリップという身近な花を持ってきているところがいい。 阿猿 かわいいチューリップだが、花びらなどにいろいろな変わり種もある。空に口をあけている形も龍天に登るに合っている。           *       *       *  「龍天に登る」という、なんとも大時代でおどろおどろしい言葉に、「チューリップ」という洋風な可愛らしい花を持ってきた。その取り合わせの違和感にまず驚くが、そのうちになんとなく「いい具合に付いているな」と思うようになってくる。晩春のうららかな日和、公園にはチューリップが花壇一杯に咲き競っている。みんな空を見上げて咲いている。その真っ青な空に、龍がまっしぐらに登って行く・・。その龍は古い掛軸にあるような恐ろしいものではなく、童話に出て来るような可愛らしいちびっ子竜に違いない。(水)

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ウォーキング歩幅広がり水温む     石黒 賢一

ウォーキング歩幅広がり水温む     石黒 賢一 『季のことば』  東京の気温が今年初めて二十度を越えた日、同年輩の句仲間三人と久々にゴルフに出かけた。一人が「背筋を伸ばさなくては」と言う。他の三人も「同感」である。私は春先、町に出た時、ショーウインドに映ったわが身を見て、ガックリきていた。「かくも老いたるか」と言いたいほどの姿なのだ。  その日以来、胸を張って歩きたいと思い、毎朝、大関・琴奨菊のように大きく反る運動をしていたのだが、少し歩いたりすると、また背中を丸めた自分に気づくのだ。ところが芝の芽生えだしたゴルフ場を歩き出すと、仲間はみんなシャンとしていたし、私もまずまずの姿勢を保っているらしい。  温度が上がると、姿勢がよくなるようである。グリーンを歩く歩幅も一歩が一ヤードと正確であった。最近の句会に出た上掲の句を思い出した。「歩幅が広がって水が温む」のはその通りなのだ。逆に水が温めば歩幅が広がるはず。人間も自然の中に暮している、ということを実感した一日であった。(恂)

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