うつろいを見た面差しや古ひいな     河村有弘

うつろいを見た面差しや古ひいな     河村有弘 『合評会から』(三四郎句会) 照芳 お雛様の顔の薄汚れを見て、歳月の移り変わりや歴史を感じたのですね。「うつろひを見た面差し」というのは、うまい表現だと思います。 而云 その通りだと思います。家庭や家族に歳月のうつろいがあり、雛の顔にも時の流れが表れている。古い雛の顔はそういうものなんですね。 賢一 その家の格式や伝統までが匂うような句です。格調高く、感動しました。 崇 この句には昭和を過ごした作者の心象が、ダブって見えます。               *          *  お雛さまを買ったのは娘の初節句の時だろう。結婚して間もない安月給の頃であった。少しずつ貯めた預金から奮発して、立派な段飾りにした。それから二十年余り。娘が結婚して家を出て行った後、雛人形という大きな荷物が残っていた。妻は今年も雛を出して飾っている。夫は雛の面差しにうつろいを見た。それは我が家の、社会の、世界のうつろいでもあった――。年配の方々の共感する句ではないだろか。(恂)

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