声荒げ怒る男にしゃぼん玉 植村 博明
声荒げ怒る男にしゃぼん玉 植村 博明
『この一句』
しゃぼん玉の行方は風の向くまま、気の向くまま。では、この句のしゃぼん玉は、どこへ飛んでいくのか。場所は公園でも、横丁でも、どこでもいいのだが、吹いたのは幼児としよう。うまく膨らみ、ストローの先を離れて、ふわふわ飛んでいき、柔らかな横風によって方向を変えて行った。
お母さんは初め「上手、上手」と手を叩いていたが、しゃぼん玉の飛んでいく方を見て、急に心配になった。一人の男が誰かに大声で文句を言っているのだ。相手は謝っているようだが、男は聞き入れず、さらに怒鳴り続けている。しゃぼん玉はあたかもその男の顔を目指すかのように進んでいく。
さて、この先どうなりましょうか、というのが、この句のテーマである。怒れる男が気のつく前に、しゃぼん玉が消えてしまっては話にならない。おや、と男が思った時、パチンと割れた、というのが理想的な展開である。男は急に表情を和らげ・・・という場面を、作者は想像しているに違いない。(恂)