しゃぼん玉ぴくりと動く猫のひげ     加藤 明男

しゃぼん玉ぴくりと動く猫のひげ     加藤 明男 『この一句』  「しゃぼん玉」と「ぴくりと動く猫のひげ」と、どういう関係があるのか。などと糞真面目に考えるのは野暮というものだ。  日当たりの良いベランダでお年寄りと猫が居眠りしているそばで、孫がしゃぼん玉に興じているところなのかも知れない。しゃぼん玉が眠り猫の方に飛んでいって、割れたひょうしに猫のひげがぴくり、という一瞬を捉えたのかも知れない。あるいは、そんな具体的な情景など全く無くて、単にしゃぼん玉と眠り猫という、のんびりした気分のものを取り合わせて、春の昼下がりの雰囲気を伝えようとしただけなのかも知れない。  この句には難しい言葉は一つも使われていない。詠み方も実にスムーズである。それなのに、理詰めで読もうとすると、途端に分からなくなってしまう。  実は俳句には、それが俳諧とか発句とか言われていた時代から、こういう風な句がかなりある。「どうぞご自由に想いを馳せて下さい」という詠み方である。モダンアートにも通じるところが、俳句にはある。(水)

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