街路樹の葉裏輝く二月かな 大熊 万歩
街路樹の葉裏輝く二月かな 大熊 万歩
『季のことば』
この句の街路樹は樟や白樫などの常緑樹。昔は街路樹と言えばイチョウ、プラタナス、ユリノキなどの落葉樹が好まれたが、近ごろは落葉が舞散るのを嫌う唐変木が多くなったせいか、大手町、丸の内界隈は常緑樹を植えることが多くなっている。高層ビルが多くなって、さなきだに日陰の多くなった都心に、常緑樹の並木では冬など寒くて鬱陶しくてやりきれない感じになるのだが、その下をそそくさと通り過ぎるエコノミックアニマルはさしたる感慨も抱かぬようだ。
しかし、この作者は違う。差し込む日の光の変化を目ざとく捉える。ついこの間までは、ただぼーっと薄暗がりを作っていた街路樹が、今日はなんとも輝いている。樟の葉、白樫の葉のかくも光り輝くのは、やはり春なのだと納得している。
二月は正月と年度末に挟まれた、なんとも慌ただしく、印象の薄い月のように見なされがちだが、冬から春への橋渡しの、繊細微妙な気候変化の月である。その「二月」を街路樹の枝葉を透かして差し込んで来る陽光の変化で示したのはさすがである。特に、「葉裏輝く」がいい。街路樹の下を歩む作者の弾んだ気持が伝わって来る。(水)