退官の講義淀みて辛夷咲く 廣田 可升
退官の講義淀みて辛夷咲く 廣田 可升
『この一句』
年度末を控えて各大学はいま、退職する教授の「最終講義」の時期である。この講義は専門分野に限らず、テーマは自由、という慣わしがあり、珍談も生まれる。ある先生はゴルフの自慢話で顰蹙を買い、ある先生は「ハゲ頭」について蘊蓄を傾け、講義を聞きに来た奥さんを失望させたという。
「退官」と言えば国公立大学の先生のことだが、私立でも同じこと。大勢の学生や先生方、奥さんや友人までが聞きに来る特別な講義である。この句は講義と辛夷の関係を倒置的に表現しているのが面白い。教授がふと窓の外を眺めたら、辛夷の花に目に入り、何らかの思いが生まれて口調が淀んだのだ。
先生は何を話していたのだろうか。まさか辛夷咲く故郷・北国の春のことではあるまい。たぶん、と私は勝手に考える。最近の学生は漢字の読み書きが苦手だ。「顰蹙」「蘊蓄」の読めない学生が半数にも及ぶ。「辛夷」はどうだろうか。俳人でもある先生は、そんなことを考えていたような気がする。(恂)