老い上手さらりと生きて燗の酒 野田 冷峰
老い上手さらりと生きて燗の酒 野田 冷峰
『この一句』
「さらり」とは「ねばねば」の反対で、「さらさら」や「さっぱりとした」と同じ意味と言っていいだろう。作者は「さらり」と生きるのが「老い上手」だと詠んだ。何人かが称賛、同意を表し、私も初めは「うまく詠むものだ」と感嘆したが、やがて「そうなのだろうか」と疑問を抱くようになった。
さらり、さばさば、が老人の理想型とは限らない。誰もが「淡きこと水の如し」になってしまったら世の中、味気ない。作者は句会に出てくると現役時代そのままに、パンチの利いた発言をしている。「さらり」と変身するのが悪い、というわけではないが、持ち味が失われてしまうなら、それも残念。
その昔、ニコニコしながら、時にぐさりとくる言葉を吐き、それでいて誰からも尊敬されていた、というような素晴らしい老人がいた。そんなタイプの老人が現代に是非ともいて欲しい。俳句は小説と同じく「自由にウソをついていい」文芸である。この句、「ウソかも知れない」などと考えている。(恂)