寒ゆるく干柿不出来と便りくる 澤井 二堂
寒ゆるく干柿不出来と便りくる 澤井 二堂
『この一句』
「干柿は冷えて甘くなる。楽しみにしていたのに残念という思いがよく詠まれている」(睦子)。「今年の異常な暖冬を干柿で表した。うまく詠んだ」(涸魚)といった評が集まった。まさにその通りである。
この句の「寒」は小寒から大寒を経て立春前までの、二十四節気で言う寒ではなく、普通名詞の「さむさ」を言った言葉である。柿が色づく晩秋、福島、長野、山形といった北の山国では一斉に渋柿を収穫し、皮を剥き、麻糸や化学繊維の紐、細縄でくくり、柿干場に吊して寒く乾燥した外気にさらす。早ければ一ヶ月、普通は四、五十日で黒褐色の肌に白い粉が吹いたコロ柿(枯露柿)が出来る。長野県飯田市の「市田柿」や福島県伊達市の「あんぽ柿」のような高級な干柿は、吊す前に硫黄を燃やした煙で燻蒸する。こうすると黒く変色せず、黄色やオレンジ色が美しい、柔らかな干柿になる。
とにかく干柿作りには冬の寒さが大事である。今冬の暖かさは干柿農家を困らせた。これは平成二十七、八年の冬を記録する時事俳句でもある。(水)