書初の一気呵成の希望かな      岩沢 克恵

書初の一気呵成の希望かな      岩沢 克恵 『季のことば』  第二次大戦後、書道に対して冷たい風が吹いた一時期があった。俳句に対する「第二芸術論」が吹き荒れた頃で、その筆者・桑原武夫は書道についても相当ひどい言葉を投げ掛けている。しかし俳句も書道も、これらよりさらに強く批判されたという短歌も、さほどの影響を受けずに今日に至った。  伝統は強い、と改めて思う。各地の書き初め大会などは戦後、連合国側の意向もあって控えた数年があったそうだが、やがて復活し、すでに新年の国民的行事と言っていい。知り合いの若い女性は「私、一人で書初めしています」と話していた。今年も自宅の一室で、毛筆を持ち、自己流の文字を書いたという。  毛筆のあの柔らかさ、滑らかさを使いこなすには相当な精神力が必要である。全身の力を抜くように、かつ全力を込めるように。句の作者は「希望」と書いた。しかも一気呵成に。日本武道館に集まって何千人もの人と一緒に書くのもいいが、書はやはり一人の、一人による、自分のための挑戦である。(恂)

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