たくましと山茶花を観る入院日 藤野 十三妹
たくましと山茶花を観る入院日 藤野 十三妹
『この一句』
この句の「入院」は心臓発作など突発的な病気や交通事故などではなく、長年抱えている病気で、医師に「思い切って入院治療した方がいい」と告げられたものであろう。ある程度の覚悟が出来ていたからこそ、山茶花に視線を這わせる余裕もある。
さはさりながら、どんな入院であろうが平然として居られる人はまず無いだろう。程度の差はあるが、誰しもかなり不安になる。家族や友人たちは現代医学の進んでいる様子や何やかやを持ち出して、力づけ、励ましてくれるのだが、心細さは一向に収まらない。
病院へ向かう車に乗せられる時、あるいは病院の玄関で下ろされた時、生垣の山茶花が目に入った。山茶花はひっきりなしに散るのが淋しいと嫌う人もいるが、散るそばから咲いて、常に賑やかでしたたかなところもある。それを作者は「たくましい」と観た。一見弱そうで淋しそうな山茶花に逞しさを感じたのだ。入院の日という、心が波立つ時との取り合わせが鋭い。(水)