山里に生きて悔やまず木の葉髪   片野 涸魚

山里に生きて悔やまず木の葉髪   片野 涸魚 『この一句』  華やかな都会生活から遠く離れての山村生活。田舎に生まれ育ち、大人になってからは仕事や子育てに追われ、その子どもたちも巣立って町に出て行ってしまった。そして今や、靜かな山里に再び取り残されている自分に気づく。木の葉髪を掻く年頃になってしまったなあとつぶやいている。しかし、不思議と悔やむ気持にはならないと言うのである。  こういう安心立命の人を端から眺めているだけで心の安まる感じがする・・・。ところがこの句の作者は敗戦後の一時期こそ山村暮らしを経験したようだが、元々は都会っ子であり、大学以降は東京住まいを通し、若い頃仕事でパリに駐在し大活躍したダンディなのだ。とすると、誰かよその人のことを詠んだものだろうか。だが俳句は原則として一人称の詩であり、第三者であることを分からせる詠み方をしていない限りは、作者自身を詠んだものと解すべきであろう。  「なりすましの句」というのもある。自分を架空の環境に置いて、そこで感じることを詠むのだ。これもそういう類の句かも知れない。ともあれ、木の葉髪の雰囲気の伝わる情感豊かな句である。(水)

続きを読む