初時雨音なく町を包みけり 井上 庄一郎
初時雨音なく町を包みけり 井上 庄一郎
『合評会から』(日経俳句会)
悌志郎 目の前に情景が広がっているのが分かります。
正市 ありそうな風景ですが、上五も下五も静かな感じが素直に広がっています。
定利 北山時雨でしょう、音もなくという感じ。
十三妹 真夜中の三時から四時ごろ、明かりがついているあちこちのマンションの窓は同じ窓です。時雨にかすむ窓々への思いに。
万歩 モノクロの版画か墨絵の世界のような静かで情感あふれる句。
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時雨と一口に言ってもいろいろな降り方がある。もともとは時雨の“本場”京都盆地の初冬、北側の山から吹き越してきた雨雲が降らせる靜かな通り雨を言った。俳諧の本場が江戸に移ってからは、ざっと降ってさっと上がる、晩秋から冬にかけての夕立のような雨と解釈する向きが加わった。現在はこの二つが混在しており、その違いは取り合わせた材料によって分かる。この句は無論、伝統的な靜かな時雨である。しみじみと、天明調を感じさせてくれる。(水)