北国の山脈駆ける紅葉かな        藤村 詠悟

北国の山脈(やまなみ)駆ける紅葉かな     藤村 詠悟 『季のことば』  春はタンポポ前線、桜前線などが南から北へと動いて行く。一方、秋になるとコスモス前線、紅葉前線などが北から南へと下ってくる。コスモスは雪が降る前に種を作らねばならず、相当な切迫感をもって北への旅を始める。紅葉はその点、雪に遭っても葉を枯らすくらいで、大きなダメージはない。  紅葉はしかし、人間の側に立てば大いに気になる存在である。ゆっくりと色づき、赤や黄の鮮やかに浮かび上がらせる最盛期は一週間くらいのものだろう。一年前から紅葉見物の予定を作り、「温泉に入りながら」など目論んでも、そうはいかない。紅葉の方が勝手に人の思惑を外してしまうのだ。  この句を読んで、見たことにない「山脈を駆ける紅葉」の様子が目に浮かんできた。秋から冬へと季節は駆けて行くが、都会に住む者は「その一瞬だけ」を見物に行くだけである。山村住まいを始めたい、と語る友人がいる。季節の動きを毎日、眺めていたいのではないだろうか。(恂)

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