われ一語老妻一語秋深し 前島 厳水
われ一語老妻一語秋深し 前島 厳水
『この一句』
この句が番町喜楽会十一月例会に出されると、「虚子の『彼一語我一語秋深みかも』と同じではないか」と難じる声が上がった。これに対し「確かに形は似ているが虚子の句とは中身が全く違う。この句は立派に成立する」との擁護論が出た。
『去来抄』にこんな話が載っている。凡兆が『桐の木の風にかまはぬ落葉かな』(桐の木は風が吹こうと吹くまいと、構わずにばさりと無造作に葉を落とすことだなあ)と詠んだところ、其角が「この句は先師(芭蕉)の『樫の木の花にかまはぬすがたかな』(まわりの花には構わず、超然として立つ樫の木の立派なことよ)という句と等類(一句の表現が既に作られている句と相似していること)だからだめだ」と言った。これに対して去来は「これは等類ではない。同巢(先例を踏襲しているが換骨奪胎していること)の句である。・・先例踏襲であっても、取り柄があれば、それはそれで立派ではないか」と言った。
元禄時代から三百年以上隔てて、奇しくも同じ論争が起こったことに愉快を感じた。(水)