曼珠沙華平将門跳梁す 井上 啓一
曼珠沙華平将門跳梁す 井上 啓一
『この一句』
「跳梁」は「跳ねまわること」だが、「悪人が我もの顔でのさばること」の意味もある。平将門は平安時代中期、関東一円に勢力を築き、「新皇」を名乗ったのだから、時の政権からすれば「悪人」と言うほかはない。一方、関東の人々は、将門の跳梁にやんやの喝采を送ったのではないだろうか。
句は上五に「曼殊沙華」と置いた。別名・彼岸花。秋たけなわの頃、堤防や畦、墓地など、人里近くを朱色に染める花の特徴を、将門の跳梁ぶりに重ねている。茎を真っ直ぐ伸ばし、一気に花を咲かせる咲きぶりには「蜂起」のイメージもあり、この取合せに頷く人が多いのではないだろうか。
曼殊沙華はまた滅びの花でもある。花は一度に咲き、みじめな風情を見せながら一斉に萎れて行く。将門は都へ出て昇進を果たせず、東に下って威をふるうが、朝廷の力の前にあっけなく散る。この花の名所、埼玉・日高「巾着田」の現況をネットで調べてみたら「曼殊沙華は終了しました」と出ていた。(恂)