灯り消しラジオを消して虫の宿 加藤 明男
灯り消しラジオを消して虫の宿 加藤 明男
『季のことば』
俳句で虫と言えば秋の草むらで鳴く虫を指す。ただ「虫」と十把一絡げで言われるがいろいろある。大きく分けると、キリギリス、馬追(スイッチョ)、轡虫(ガチャガチャ)などバッタの仲間と、ツヅレサセ、エンマコオロギ、鈴虫、松虫、邯鄲などコオロギ科の虫である。バッタ科のキリギリスや馬追が派手に、野趣豊かに鳴くのに対して、コオロギ科の方はしみじみとした感じで鳴く。
ここで言う宿は旅館とは限らない、只今住まっている我が家でもいい。歳を取ると夜早くから眠くなる人と、目が冴えてなかなか寝つけない人とに分かれるようだ。夕食をとるなり寝てしまって日付が変わる頃に目が覚めて、ひとしきりラジオやCDを聞いてから二度寝する人もいる。
マーケティングの大家が「若者にモノを売るのは簡単、年寄りは一人一人好みがあって大変」と、“シルバー市場”を固めるのがいかに難しいかを嘆いていた。虫の音を聞くにもそれぞれ流儀がある。夜半、ラジオ深夜便も消して、豆電球も消して、じいっと耳を澄ましている。息をしているのは自分とコオロギだけだなあ、バアサン全然呼びに来ないなあなんて思っている。(水)