日の落ちる時のすき間に秋の声   石黒 賢一

日の落ちる時のすき間に秋の声   石黒 賢一 『合評会から』(三四郎句会) 信 朝晩の気温が少し変わってきたと感じる時期ですね。まだ暑さは残っているものの、その「すき間」に、というのがいいですね。 尚弘 「時のすきま」という言葉を上手に使っている。 正義 夕日が落ちる頃はまだ暑いが、やはり秋の声が聞こえてくる。           *       *       *  句友が口々に言うように「時のすきま」という言葉を発見したところがさすがである。秋の夕方は古来物思いを誘う時間であり、新古今和歌集に載っている、寂連、西行、定家が「秋の夕暮」を詠んだ「三夕の歌」をお手本として、現代に至るも秋の寂寥感、「もののあはれ」が歌われ続けている。  しかしこの句は秋の暮を詠んではいるのだが、ことさらに寂寥感などを押し出してはいない。素直に秋の気配がすると述べているだけである。そこが却って素晴らしい効果を上げ、読む者にあれこれと物思わせる力を発揮することになった。(水)

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