海原や西日の揺らぎ抱きしまま     水口 弥生

海原や西日の揺らぎ抱きしまま     水口 弥生 『この一句』  例えば伊豆の海釣りで、青森の五能線での旅で、海に沈む夕日を何度となく眺めているが、同じような光景はもちろん一度もない。場所が違うし、雲の状況もさまざまだし、それに海に沈んでいく太陽は常に揺らぎ、変形しているのだ。縦に伸びたり、扁平になったり、ひょうたん形になったり・・・。  太陽は海上の空気の層を真横に通過してくるからだ、と教えてもらったことがある。この間、空気の膨大な厚みがレンズのように働き、風の流れや空気の温度差もあったりして、丸い太陽が歪んだり、揺らいで見えるのである。この句は海に沈んでいく西日のそんな様子を大きく捉え、巧みに詠み切った。  「海原や」という表現が、簡単なようでななかなか思いつない。「抱きしまま」と余韻を残し、その後の海原の様子を読み手の想像に委ねている。落日の動きは意外に速いもので、一秒、二秒と数えるうちに沈んでいく。昨日、八月十五日の夕日もさまざまに変化しながら、海に抱かれて行ったのだろう。(恂)

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