河童忌や過ぎし日々あり書庫の中     大澤 反平

河童忌や過ぎし日々あり書庫の中     大澤 反平 『この一句』  「河童忌」は七月二十四日、短編「河童」にちなんで名付けられた芥川龍之介の命日である。この句は、梅雨明けて間もない一日、書庫に入って明治・大正期の小説集でも眺め、あのころは・・・としばし回想した、という場面だろう。学生運動に熱中した頃、人生に悩みながら読んだ数々の作品が頭の中を駆け巡る。  かつて文学青年と呼ばれる一群がいた。「心に毒を持たねばならぬ」という先輩の言葉を信じて、“芥川ぶったり”する仲間がいた。「芥川の心中には黒い何者かが蹲っている」と書いた作家もいた。しかしいま、老境を平穏に歩んでいるのは毒も、黒い何者かも持たない人々ではないだろうか。  今年の芥川賞は、お笑い芸人・ピース又吉さんの「火花」の受賞によって、近年に例を見ないような盛り上がりを見せている。芥川や太宰の小説を読み込んだ末の栄冠に、かつての文学青年は「なかなかいいよ」と褒めながらも、評論家的な言葉が浮かぶ。「よさそうな人柄だけに、ちょっと毒が足りないかな」。(恂)

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