補陀落の西日の中のヨットかな   大熊 万歩

補陀落の西日の中のヨットかな   大熊 万歩 『この一句』  「補陀落」は「普陀落」とも書き「ふだらく」と読む。ポータラカという梵語(古代サンスクリット語)の音を漢字に写した仏教用語で、南海にある観世音菩薩の住む山である。中世から近世初めにかけて観音信仰が盛んになった日本では、即身成仏を遂げようとする僧が、熊野灘や足摺岬などから、櫓も櫂も帆も無い小舟に乗って西日の沈む大海原を漂って行った。  これを補陀落渡海と言い、その僧は聖人と崇められ、送り出した寺の権威も上がる。しかしだんだんと形式化義務化し、泣いて嫌がる僧を無理矢理小舟に押し込み大きな船で沖まで引っ張って行き、綱を切って放ちやったという伝説も残っている。補陀落渡海は江戸中期まで行われていた記録が那智勝浦の補陀落山寺にあるが、最後の方は死んだ住職を渡海船に乗せて水葬にする方式になったようだ。  今やヨットだサーフィンだと、西日傾く海に遊び狂う連中が溢れかえっている。夕陽に燦めくヨットや、大きなしぶきを上げて滑走するサーフィンは美しい。しかししかし、無理をすると・・・補陀落渡海となる。(水)

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