男梅雨坂東太郎ひろごりぬ       野田 冷峰

男梅雨坂東太郎ひろごりぬ       野田 冷峰 『この一句』  まず「ひろごりぬ」から。「広がりぬ」と同じ、とは知っていたが、大辞典で改めて調べて見たら源氏物語や枕草紙の例が出ていた。古い言葉なんだ、と感心する。次に坂東太郎。俳句をやっていれば常識的な言葉で、「関東一の川」、つまり利根川のことだ。「太郎」は「最も大きなもの」の意味があるという。  さらに「男梅雨」。古めの歳時記には出ていないようで、「歳時記にありませんよ」と言う人がいるかも知れない。言ってみればこの句は古めかしく、いかめしい語だけで固めた代物である。「もっと普通の言葉で」と言いたいところだが、堂々たる感じは悪くない。何より利根川を詠んでいるからだと思う。  水系図を見ると利根川は、浅間山、赤城山など関東北部に並ぶ山系から細糸のように流れ出て、素麺のように、饂飩のように太くなりながら太平洋に注いでいく。かつてJRでこの川を渡って通勤していた私にとって、梅雨の頃の圧倒的な水量は忘れ難い。言葉の気どりを、利根川が流し去ってくれた。(恂)

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