まぼろしの城立ちあがる夏の空   今泉 恂之介

まぼろしの城立ちあがる夏の空   今泉 恂之介 『この一句』  これは豪快な句だ。まぼろしの城というのだから、実際には何も無いのだ。ただただ真っ青な空に突如、壮大な天守閣が見えたのだろう。むくむくと立ち上がる入道雲を城にたとえた可能性もあるが、むしろ何も無い天空のキャンバスに、巨大な城が現れたという白昼夢の方がいい。  作者によると、これは皇居東御苑で詠んだものだという。江戸城の天守閣跡である。巨石を積み上げたざっと50メートル四方、高さ13メートルの壮大な天守台が残っている。この上に明暦大火(1657年)で焼失するまでは高さ45メートル五層六階の日本最大の天守閣が聳えていた。大阪城より大きく、姫路城天守閣の三倍の体積だったというから、まさに世界一の城である。  今、これを再建しようという話が盛り上がりつつある。500億円もあれば十分というから、2500億円もかけて変チクリンな国立競技場なんか作るよりも気が利いている。天守閣を中心にした東御苑と北の丸公園は、バッキンガム宮殿や紫禁城などよりずっと魅力的な観光スポットになる。作者はそれを先取りして、梅雨の晴れ間の大空に巨大な城を描いたか。(水)

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