バス降りてふる里匂ふ青田かな   河村 有弘

バス降りてふる里匂ふ青田かな   河村 有弘 『合評会から』(三四郎句会) 正義 一日にバスが一、二本、停留所の周りは青田。まさに懐かしい田舎。 尚弘 タクシーではなくバスの帰郷というのがいいな。 照芳 「ふる里匂ふ」が特にいいですね。 敦子 故郷の匂いと青田が合っています。 豊生 敗戦後、満州から高松に引き揚げてきた時の一面の青田が忘れられません。お米の基が、この青々とした田にあるんだなと。あの頃は木炭バスでしてね、この句から思うことがたくさんありました。 進 私が思い出すのは疎開していた頃の青田風景です。           *     *     *  「匂い」は嗅覚だけではなく、古来、情趣、雰囲気、気分が漂うことも「匂ふ」と言った。俳諧では殊に「匂」は重んじられ、前句の趣に添わせて詠むのを「匂付(においづけ)」と言い、良い付け方とした。この句もまさに伝統的な「匂ふ」であろう。一面に広がる青田を渡る薫風。都会暮らしの塵埃が一瞬に吹き払われ、故郷の雰囲気に浸ったのだ。(水)

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まぼろしの城立ちあがる夏の空   今泉 恂之介

まぼろしの城立ちあがる夏の空   今泉 恂之介 『この一句』  これは豪快な句だ。まぼろしの城というのだから、実際には何も無いのだ。ただただ真っ青な空に突如、壮大な天守閣が見えたのだろう。むくむくと立ち上がる入道雲を城にたとえた可能性もあるが、むしろ何も無い天空のキャンバスに、巨大な城が現れたという白昼夢の方がいい。  作者によると、これは皇居東御苑で詠んだものだという。江戸城の天守閣跡である。巨石を積み上げたざっと50メートル四方、高さ13メートルの壮大な天守台が残っている。この上に明暦大火(1657年)で焼失するまでは高さ45メートル五層六階の日本最大の天守閣が聳えていた。大阪城より大きく、姫路城天守閣の三倍の体積だったというから、まさに世界一の城である。  今、これを再建しようという話が盛り上がりつつある。500億円もあれば十分というから、2500億円もかけて変チクリンな国立競技場なんか作るよりも気が利いている。天守閣を中心にした東御苑と北の丸公園は、バッキンガム宮殿や紫禁城などよりずっと魅力的な観光スポットになる。作者はそれを先取りして、梅雨の晴れ間の大空に巨大な城を描いたか。(水)

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