モンゴルの草原眩し馬の夏   藤野 十三妹

モンゴルの草原眩し馬の夏   藤野 十三妹 『この一句』  モンゴルへ出かけた人はそう多くはないはずだ。私も行ったことがない。しかしモンゴルは、我々日本人にとってずいぶん身近な感じがする。「満蒙開拓団」は戦後、その悲惨な実態が明らかにされ、戦時中の若者に与えた「大陸雄飛」の夢は虚構と知れたが、とにかく一時的にせよ日本の青少年が胸躍らせるロマンがあった。今日では大相撲はモンゴル力士の大活躍で保っているような塩梅だ。テレビでも大草原がしばしば取り上げられるが、評判がいい。  というわけでモンゴルと置いただけで、読者には何となく分かったような印象を抱いてもらえる。それだけに、絵に描いたようなイメージが染みついた固有名詞を不用意に使うと、安直な感じの句になりやすいという危険がある。  この句も「モンゴルの草原眩し」までは何とも平凡である。しかし「馬の夏」という特異な措辞によって救われた。「夏の馬」ではなく、馬の夏なのだという。これがまさに蒙古馬の群れが嬉々として駆け回るモンゴル大草原を、生き生きと浮かび上がらせた。(水)

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