水はりしばかりの田んぼ夏映す   溝口 知宏

水はりしばかりの田んぼ夏映す   溝口 知宏 『季のことば』  田植の準備がすべて整い、一面に水を張った田んぼ。そこに夏の雲が映っているのだろう。日本の初夏の田園風景を素直に詠んでいて、気持がいい。日経俳句会初登場の作者のデビュー作。  日本列島は南から北へと細長いから田植の時期も場所によってかなりの差がある。最近は品種改良が進んで極早稲とか低温で植え付けても大丈夫な品種も生まれて、各地域とも田植え時期がずいぶん早まっている。というわけで沖縄や九州、四国、中国地方では3月下旬にもう田植えという所もあるようだが、まあ田植えと言えば、関東、関西、北陸、東北など5月半ばから6月中旬ということになる。この句の田んぼは、その田植えが始まる寸前である。「田植まへ日に夜を継ぎて水の音 てる夫」という句もあるように、用水路の堰を開いて田んぼに一斉に水を流し込む。翌朝の田んぼは一面の水鏡で、朝陽に眩しい。  「水はりしばかりの田んぼ夏の雲」あたりの方が落ち着く感じだが、この「夏映す」というちょっとこなれていない措辞がかえって新鮮で、初夏の気分を伝えてくれる。(水)

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