投了の所作美しき扇子かな       嵐田 双歩

投了の所作美しき扇子かな       嵐田 双歩 『この一句』  この句は囲碁なのか、将棋なのか。「負けました」の意を表す「投了」の語は、双方に用いられるので、どちらなのかと迷う人がいそうである。しかし作者は他の語を敢えて省略し、判断を読者に委ねた。分かってくれればいいし、分からなくても「美しい」と感じてもらえればいい、と考えたのだろう。  これは将棋だ、と私は判断した。囲碁で「負けました」と意思表示するには、アゲハマ(獲得していた相手の石)を盤上に置いたりするが、「美しき」と言えるほどではない。それで「囲碁ではない」という消去法によって、「将棋」と決めたのである。しかし将棋の投了の所作とはどのようなものだろうか。  聞くところによると将棋の場合、「負け」の意を相手に伝える時は居住まいを正し、正座した膝の前に扇子を置き、頭を下げるのだという。和服姿の敗者の端然たる姿が浮かんでくる。「美しい」という語を用いず美しさを表現するのが、俳句の定法だという。しかしこの句は「美しき」を用いてなお美しい。(恂)

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