かをりくる扇の風に裏おもて 玉田春陽子
かをりくる扇の風に裏おもて 玉田春陽子
『合評会から』(番町喜楽会)
可升 扇(おうぎ)の風にこちら側とあちら側がある、ということなんですね。香りはどちらでも同じはずですが、面白い句なので選びました。
而雲 扇はこのように(手首を振りながら)ゆっくり動かすと、確かに扇の表の風と裏の風があるはずです。こんなことを、よく思いついたものだ、と感心しました。
冷峰 扇に表と裏があるとすれば、風にも表裏があっておかしくない。
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この後、何人かが扇子を取り出し、扇ぎ出した。「こうすると風は強く、反対は弱くなります」「いや、逆でしょう。手前に引くように扇ぐと、強くなりますよ」「それはあなたが左利きだから――」という具合に、賑やかなことになった。作者はちょっとニュアンスの違うことを言っていたが、「俳句は出来てしまえば、こちら側のもの」と物ともせず、扇子論が盛り上がった。その昔の扇子は、裏側に骨がむき出しになっていたという。もともと表裏があるのだから、風にも表裏があるのは当然であった。(恂)