春愁や踏みたる草の深くして   宇佐美 諭

春愁や踏みたる草の深くして   宇佐美 論 『季のことば』  「春愁」は、春たけなわのころによくある、何とはなしの物憂い気分を言う季語。新体詩がはやった明治三十年代以降に生まれた季語のようである。子規が興した“新派”の「俳句」を高らかにうたい始めた人たちによって取り上げられた詩語であろう。一説では大正末年に出た『新校俳諧歳時記』に季語として集録されてから広まった(山本健吉説)ともいう。  気温変化が激しく、雨が続いたり、嵐のような風が吹いたりして春はどうも落ち着かない。これが体調にも影響し、情緒不安定をももたらす。俳人はそれをかっこよく「春愁」という言葉にした。フツーの人よりもほんの少し考え事をする俳人という人種が、「秋思」という季語と共に「春愁」をこよなく愛し、広め、現代俳句でも高い人気を持ち続けている。  草むしりを怠った庭か、野道か。緑が濃くなったところに踏み込んだら、意外に深く、その弾力が足裏にも脛にも伝わってきた。もちろん夏草の猛々しさはないのだが、なんとなくまとわりつく強さが感じられたのである。晩春の、少しもわっとする空気まで伝わってくる。(水)

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