のどかなりハエの足もむ音きこえ     石黒 賢一

のどかなりハエの足もむ音きこえ     石黒 賢一 『この一句』  物音一つしない春の一日、作者は机に向かって俳句を考えている。両手で顎を支え、庭を眺めていたのではないだろうか。ふと窓際に目をやると、暖かい日差しを受けて、蝿が一休みしていた。オヤ、蝿が前足をすり合わせているぞ。一茶の「やれ打(うつ)な蝿が手をすり足をする」がすぐに頭に浮かぶ。  蝿に手はないはずだ、あれは前足だろう、と思う。しかし一茶はあえて「手をする」とし、手をもんで申し開きをする人間の様子を表したかったのだ。流石にうまいもんだ、と思うが、オレだって、の気持ちはある。何か新発見はないかと神経を張り詰めていると、蝿の足をもむ音が、聞こえてきたような・・・  この句、NPO双牛舎総会句会で上位の一角に食い込んだが、当欄に載せるにあたって「音は実際に聞こえたのか」が気になった。作者に訊ねてみると「集音マイクを使ってもダメでしょう」とのメールが返ってきた。聞くまでもないことだった。句を選ばれた方は、そんなこと百も承知、だったのだろう。(恂)

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