暗渠から花流れ出る小川かな      井上 啓一

暗渠から花流れ出る小川かな      井上 啓一 『この一句』  山林と畑地の間を小川が勢いよく流れていた。残花の時期だったが、流れの中に桜の花びらを確認した。農業路が小川を横切っていて、花びらが暗渠に吸い込まれて行く。何人かが向う側の出口を覗き込んで「おー、出てきたよ」と、当然の結果を報告していた。句の作者はもちろん、その一人である。  小雨のち曇りの土曜日、番町喜楽会が横浜市青葉区にある「寺家(じけ)ふるさと村」で吟行句会を行った。周辺は横浜市有数の住宅地だが、街区から少し外に出ると、里山と畑が広がる農村地帯だった。渋谷から田園都市線の急行で青葉台まで三十分余り。こんな手軽な吟行があるのか、と驚いた次第。  句会後の合評会で作者は「この句、実は孕(はら)み句に近い」と打ち明けた。吟行に備えて自宅近くを流れる川の周辺を歩き、同じような情景を見ていたのだという。「黙っていれば、分からなかったのに」という声があったが、作者はこう言いたかったのだろう。「吟行も備へのありて憂ひなし」。(恂)

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