春の日や大道芸人椅子重ね       澤井 二堂

春の日や大道芸人椅子重ね       澤井 二堂 『この一句』  私が東京・上野公園で見た大道芸は木の椅子を重ねていた。下の椅子は普通に地面に置くが、その上の椅子は四つ脚の一本だけを下の椅子に載せるのだから、不安定極まりない。芸人はしかし椅子の背を左腕で抱え込むようにして安定させ、右手は下の椅子の背をつかみ、じわじわと逆立ちしてしまうのだ。  この句の芸がそれと同じかどうか分からない。しかし周りで見守る人々をはらはらさせ、感嘆させるのは同じだろう。体操競技が純粋な業だとすれば、こちらは技に芸が加わっている。例えば椅子を重ねる時、わざとぐらぐら動かし、人々の不安をあおる。そうして見事な技を見せて拍手喝さいを浴びる。  この句、「春の日」が効いていると思う。通りすがりに見る人が多いが、ファンもいるらしい。芸が終わればすぐに立ち去る人、しゃがみ込んで次の芸を待つ人。春寒の頃から人々は集まり出す。その後に桜は開花し、満開を迎え、すでに花は葉に。しかしパフォーマーたちの季節はむしろこれからだろう。(恂)

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