囀に気づかぬ人の足早し   高橋 ヲブラダ

囀に気づかぬ人の足早し   高橋 ヲブラダ 『この一句』  浮世のよしなし事に振り回されて己を見失っている身として、こういう句に出くわすと愕然とする。おそらく私の歩く姿もこのように、常に何かに追われているような、せわしなく、侘びしいものなんだろうなあと思う。  鶯にしても四十雀にしても、春の「囀り」はかなり派手で、それぞれ独特の節回しで、なかなか面白い。さもありなん、これでメスを呼び寄せ子孫繁栄の営みをしようというのだから、まさに必死なのである。歌声のいいの悪いのなどというのは、人間どもの勝手な品評である。  とにかく、野の小鳥たちは一世一代の声を張り上げているのだ。しかし人間どもは「心ここにあらず」で、目はうつろ、耳は塞がれ、木々の芽吹きにも小鳥の囀りにも気づかない。ちょうどこの頃は人事異動の季節。サラリーマンにとっては「どこに行かされるか」に思いが集中している。受験や入学の子供を抱えている人もあろう。ついつい前のめりにならざるを得ない。自然界と人界の触れ合いとすれ違いをうまく詠んだものである。(水)

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