病院を抜け出す午後や青き踏む   金田 青水

病院を抜け出す午後や青き踏む   金田 青水 『季のことば』  踏青(とうせい)という古代中国から伝わった行事が季語になり、日本式に「青き踏む」と言い換えられるようにもなった。隋唐時代の中国には、三月三日(旧暦)に若草萌え出づる野原に出て遊び、飲食し、詩歌を詠み合ったりする風習があった。それが飛鳥・奈良時代に伝わり貴族の春の野遊びになる。この言葉が連綿と伝わって、俳諧、俳句の季語として生き残った。  萌え立つ若草は生命力に溢れている。その精気を身内に取り込み不老長寿の糧としようという自然信仰心から生まれた行事なのだが、その気分はいまだにこの季語の中に籠もっている。現代の暦だと三月下旬から四月の季語である。  この句はまさに季語の本意にぴたりと添っている。作者は、失礼な言い方だが持病を抱えて「病院慣れ」した人であろう。定期的に検査のためなどで入院するのだ。こういう入院だから時には病室を抜け出すこともできる。子供時代学校をサボったことなど懐かしみながら近所を散歩する。青草を踏みしめると気が晴れる。怪我一つ風邪一つ引かなかった若い頃には考えもしなかった「生きている、生かされている」という思いを、しみじみ噛みしめている。(水)

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