春めくもたまに鋭き風のあり   今泉 恂之介

春めくもたまに鋭き風のあり   今泉 恂之介 『この一句』  句会でこの句を見た時、「なんとバカバカしい句か」と思った。春めいてきたけれどたまには冷たい風が吹くとは、当たり前過ぎて、論評するにも及ばない。俳句にするまでもないではないのか。もちろん選ばなかった。  ところがこの句が三点も取ったのである。出席者わずか11人という中での三点はなかなかのものである。採った人の評は「そうだよなあという共感」(可升)、「春めくの句にはいかにも春になったというのが多いが、実はまだ寒い。この句はそういう季節感をよく表している」(白山)、「けれん味の無い句だ」(水馬)と、まあ全面的に共感しちゃっているのである。それでもまだへそ曲がりの私は納得せず、こんな当たり前俳句、と思っていたのであった。  然るにこのコラムを書くに当たって、句会の全作品を読み直しているうちに、この「当たり前」こそが値打ちなのだと気づいた。どこか歩いている途中、角を曲がった途端に寒い風をまともに受けた。その瞬間を詠めば、多分こういうことになるだろう。これこそが俳句の原点なのではないだろうか。(水)

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