遠き日の押しくらまんじゅう冬温し    渡辺 信

遠き日の押しくらまんじゅう冬温し    渡辺 信 『季のことば』  「押しくらまんじゅう」を全て漢字で書くと「押し競饅頭」となる。「競べ」をの「べ」が、いつしか省かれたのだろう。何人もの子供が集まり、全員が中心に向かって押し合いをする遊び。あれは遊びではあるが、相当に激しい運動であり、凍えた体を暖めるための生活の知恵でもあった。  全盛期は終戦直後、学校に暖房設備の少なかった頃だったと思う。余りの寒さに先生が提案し、クラスの全員が始めた、と句会で語った人がいた。中心に押し込まれ、ものすごい圧力を受け、気が遠くなった、と言う人もいた。体験者にとっては、よき思い出ばかりではなかったようだ。  「押し競饅頭」は冬の季語とされるが、現在では載せていない歳時記もある。いずれは消えてゆく季語なのだろう。この句の季語はもちろん「冬温し」であり、季重なりを気にするほどのこともない。温かい冬の一日、懐かしくも遠き少年時代を思う・・・。作者はそんな自身の様子を描いたのである。(恂)

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