道灌の伏兵どつと枯野原      大澤 水牛

道灌の伏兵どつと枯野原      大澤 水牛 『この一句』  道灌とはもちろん江戸城を築き、山吹の故事で知られる太田道灌のこと。室町時代に関東で大きな勢力を誇った武将・兵法家である。この句、枯野を進む敵の軍勢に、潜んでいた道灌の一軍がどっと襲いかかった場面。短い言葉の中から、リアルな時代劇映画を見るような臨場感が漂ってくる。  例えば以下の二句。「熊坂が長刀に散る蛍哉」(小林一茶)「大手より源氏寄せたり青嵐」(夏目漱石)。前句は伝説の盗賊・熊坂長範がなぎなたを振るう場面。後の句は源平の合戦だろう。両句とも昔のことを絵空事風に詠むが、道灌の句は平成の世から室町時代の戦を直に眺めたような趣がある。  作者は近年、道灌について調べている。句は道灌が豊島氏を滅ぼした石神井城から合戦のあった江古田ヶ原など(練馬区~中野区)を歩いた時に浮かんだという。東京の典型的な市街地の中に、道灌軍の動きが見えてきたのだ。歴史探訪・実地検証によって生まれた、古くて新しい俳句だと思う。(恂)

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