枯蓮や昔のままの片笑窪     高石 昌魚

枯蓮や昔のままの片笑窪     高石 昌魚 『この一句』  「昔のままの片笑窪(えくぼ)」とは高石先生、言ってくれましたね。懐かしい女性の現在の写真を見たのかも知れないけれど、実際に会った、としなければ、この句は面白くなりません。再会の場所は、と考えて「あそこに違いない」と勝手に決めました。枯蓮に覆われた上野の不忍池(しのばずのいけ)です。  不忍池の弁天堂に向う途中に佐藤春夫の詩碑「扇塚」があり、日本舞踊の女流名手・初代花柳寿美の死を悼んだ詩が碑面に彫られています。「ああ佳き人のおも影は しのばざらめや不忍の・・・」。佳人の面影を、偲ばずにいられようか、という意味でしょう。思う人と久々に会うならここ、と決めた所以です。  句の主人公は昔の恋人を上野駅に出迎え、枯蓮の不忍池にやってきました。面影を偲んできた人を間近に見て、ああ、笑窪も昔と変わらない、と胸を熱くしたのです。ただし句の作り方からして、フィクションの可能性があると私は思います。「先生、その後は?」などと聞くのはヤボというものでしょう。(恂)

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