祖母の声美顔水より糸瓜水      渡辺 信

祖母の声美顔水より糸瓜水      渡辺 信 『季のことば』  九月十九日は子規忌だった。別称「糸瓜忌(へちまき)」で知られるように、糸瓜が大きくなる頃である。この時期、東京・根岸の子規庵へ行くと縁先の棚に大きな糸瓜がぶらりと垂れ下がっているが、「おや、珍しい」という感じを受ける。糸瓜の栽培が、それくらい少なくなってきたということだろう。  かつて東京の多くの家で日除け用の糸瓜棚を作っていたが、最近はゴーヤに役割を譲ったようだ。九州や沖縄の食用を別にすれば、化粧水としての糸瓜水も、糸瓜タワシも、はるか昔のことになった。今や一定の地位を保っているのは、俳句の季語としての「糸瓜」「糸瓜忌」くらいのものかも知れない。  この句にも糸瓜を懐かしむ心情が窺えよう。糸瓜の枯れ始める頃、根元から三十造曚匹僚蠅鮴擇辰道絮賛紊鮗茲襪函一升瓶で一本は軽い。祖母が瓶を取り変えながら、口癖のように「美顔水より糸瓜水」と言う。作者はゴーヤの日除けを見上げ、祖母の声を懐かしく思い出していたのではないだろうか。(恂)

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