長月や生きた分だけ爪を切る     岩沢 克恵

長月や生きた分だけ爪を切る     岩澤 克恵 『この一句』  この句、句会で大いに気になった。選べなかったのは「生きた分だけ」がはっきり理解出来なかったからだ。合評会で「どういう意味だろうか」と訊ねてみた。欠席投句なので作者の答えはないのだが、何人かの解釈に納得した。「前に爪を切ってから、その日まで」。なるほどそうかも知れない。  十日に一度か、二週間に一度か、女性は爪を丁寧に切っているのだろう。形を整え、やすりで削り、その後のことは分からないが、男性には思い及ばぬ気持ちを注いでいるに違いない。長月がその爪切りと、どう関わり合っているのか。長月は「長雨の月」から来ており、長雨は「眺め」の掛詞だという。  その昔の古文の授業を思い出した。小野小町の「花の色はうつりにけりな いたずらに」に続く下の句の解釈である。「わが身世にふるながめせしまに」。先生は「美人が長雨を眺め、世に古る自分をしみじみと思っている」と説明した――。勝手なことを書いたが、さほど外れていない、という思いもある。(恂)

続きを読む