鮭一尾届いたさてと腕を組む     杉山 智宥

鮭一尾届いたさてと腕を組む     杉山 智宥 『季のことば』  鮭一尾が家に届いたとなると大ごとである。何しろ体長一辰發△訛臺だ。浜育ちや海釣りの名人など、腕に覚えがあるなら「ホイ来た」とばかり出刃包丁を取り出すだろうが、普通の人では手に余る。しばし眺めた末に、おずおずと万能包丁の刃を入れる、というということになるのだろう。  かつて塩鮭は有力なお歳暮贈答品の一つで、それを捌くのが各家の大仕事であった。男手のない時などは近所の魚屋に頼む。頃合いを見て、バットという琺瑯引きの四角い容器を持ち、切り身になった鮭を魚屋に取りに行くことになる。年配の人には、このような記憶を持つ人が多いのではないだろうか。  しかしお歳暮の鮭は塩の効いた荒巻のことで、こちらは冬の季語になってしまう。近年は北海道などから、獲れたてが宅配便などで送られてきて、刺身でも食べられるという。荒巻ではないから、この句はまさに現代の秋の風景だ。近所に親しい魚屋がないから、ますます「さて」と腕を組むことになる。(恂)

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