父母の子供となりて墓の前      植村 博明

父母の子供となりて墓の前      植村 博明  仏教は大陸から日本に渡来し、世界の宗教に稀な特色を備えた。その第一が、亡き一族を仏(崇拝の対象)として祀る風習である。墓を守る者たちは、亡き父母、祖父母から先祖までを身近な仏として拝み、会話し、自分のこと、家族のことを報告し、やがて自分も墓中の一員になることを思うのである。  この句は以上のような日本人独特の宗教観や死生観を、一つにまとめて表出した。自分が父母の子供として生まれたのは、当たり前のようだが、宇宙的な奇跡でもある。誕生から今日まで、自分に関わる全ては、父母の子になったために生じている。喜びも悲しみも、仕事のこと、妻子や孫のことも――。  下五「墓の前」の一語が特に優れていると思う。ただ墓前に立っている様子によって作者の心情がじわりと浮かび上がってくるからだ。「墓参り」「墓洗う」のような、行動を具体的に表す言葉では、こうはいかないだろう。秀句、佳句の目立った墓参の句の一番目に、私はこの句を選んだ。(恂)

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