鮭の稚魚放ちて四年帰郷待つ   藤村 詠悟

鮭の稚魚放ちて四年帰郷待つ   藤村 詠悟 『この一句』  鮭は生まれた川に戻って来る。鮎もそうだが、鮎が河口近くの海に住み着いて育つのに対して、鮭は遥か何千キロも離れた北洋を回遊した挙げ句に、生まれ故郷の川をちゃんと探し当てて戻って来るのだから、その能力は驚きである。卵から孵って翌春海に出て、通常、三年か四年で親鮭になって産卵のために帰って来るのだという。  鮭の産卵河川は北海道を中心に太平洋側は千葉県銚子近辺まで、日本海側は島根県まであるが、やはり北海道と東北が本場である。この回帰性を利用して、遡上してくる親鮭を捕獲し採卵、人口受精、孵化して育てた稚魚を放流することが明治時代から行われてきた。この句の作者は若い頃、岩手支局勤務だったから、鮭の孵化場も取材先の一つとしてなじみのものだったのだろう。  孵化場の作業員が一生懸命手塩にかけた稚魚を、「無事に帰って来いよ」と祈るように送り出す。そして秋の声を聞くや、四年前に放った稚魚が帰って来るはずの川面を熱心に見守る。鮭の句としては珍しい場面を詠んでいる。現場を知っていてこその句である。(水)

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