走り蕎麦一茶の在所との曇り       徳永 正裕

走り蕎麦一茶の在所との曇り       徳永 正裕 『季のことば』  蕎麦には春播きと夏播きがあるという。その結果なのかどうか、季語としての蕎麦は相当ややこしい。「蕎麦」や「新蕎麦(走り蕎麦)」は秋の季語である。では「蕎麦の花」は? これも「秋」なのだ。そして「蕎麦刈」「蕎麦干す」を「冬」とする歳時記が多く、一体どうなっているのか、と首をかしげてしまう。(詳しくはNPO法人双牛舎のホームページ「水牛歳時記」を参照のこと)。  しかしこれらの中で季節感をくっきりと漂わせる季語がある。もちろん「新蕎麦」、そしてその傍題ながら存在感十分の「走り蕎麦」である。時期的に春播きが稔ったものと思われるが、ともかく固めにゆで上げた新蕎麦の香りや舌触りはまさに爽秋。さて、これに何を配して一句に仕上げるか。  この句は走り蕎麦を賞味する場に一茶の故郷を持ってきた。新潟県の黒姫山に近い北国街道の柏原宿、現・信濃町。「との曇り」は雲が一面にたなびき、曇っている状況だという。「梨咲くと葛飾の野はとの曇り」(水原秋桜子)を思い出す。曇り空もまた一興。晴天よりずっと味わいが深い。(恂)

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