灯を消せば十六夜の月寝屋に入る   高井 百子

灯を消せば十六夜の月寝屋に入る   高井 百子 『この一句』  一見何と言う事もない平凡な句のようだ。しかし、じっくり反芻すると、なかなか味わい深い句だと思うようになる。  現代人は忙し過ぎて、昼も夜もだらだらと仕事を続ける癖がついてしまっている。はっと気がつくともう真夜中である。慌てて後片付けをして、烏の行水のような風呂に入って、寝る。  灯を消した途端に窓から月光が射し込んで来た。まん丸のお月様が中天に輝いている。もう一度電気をつけてカレンダーを見ると、昨夜が十五夜。とするとこれは十六夜なんだと合点しながら、しみじみと眺める。おかげでとても満ち足りた気分になれた。  「~すれば」という言い方は、物事に対して抱く想念の広がりをわざわざ狭めてしまうマイナス要素があって、俳句詠みにはあまり好まれない。しかしこの句の「ば」はどうしても欠かせない。灯を消さなければ、こんなロマンチックな世界を見ることが出来なかったのだから。(水)

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