雲の峰はるけく生きて来たりけり     大沢 反平

雲の峰はるけく生きて来たりけり     大沢 反平 『季のことば』  「坂東太郎」は関東随一の河川・利根川の異称である。しかし江戸の方言では入道雲、つまり「雲の峰」のことでもあったとは。ならば、と調べてみたら信濃太郎、石見太郎、丹波太郎、安達(あだち)太郎、比古太郎も雲の峰。信濃太郎は近江や越前の呼び名で、比古太郎は英彦山に湧くからだという。  雲の峰の名称は「夏雲奇峰多し」(陶淵明)など中国の詩に由来するらしい。しかしこの語、日本に移入されて本家よりはるかに豊かなイメージを生むようになった。「野社に太鼓うちけり雲の峯」立花北枝。「雲の峯石臼をひく隣かな」河野李由。雲の峰は何にでも似合うことを、日本人が発見した。  「雲の峯きのふに似たるけふもあり」加舎白雄。冒頭の句はこの白雄の句の系列だろう。。人生に関わる思いも、雲の峰によってより親しく感じられるのだ。「はるけく生きてきたりけり」。これに「雲の峰」を配されると、七十歳代も半ばを過ぎた者は「本当にそうだなぁ」と頷くほかなないのである。(恂)

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