老犬の昼哭き夜哭き残暑かな   山口 斗詩子

老犬の昼哭き夜哭き残暑かな   山口 斗詩子 『この一句』  これほど困惑することはない。どこが痛いのか、どう苦しいのか、もとより伝える言葉を持たないから、ただ悲しそうに苦しそうに泣くばかり。飼主としてはせいぜい身体をさすってやることぐらいしか出来ない。しかし、いくら愛犬とは言え、一日中泣かれ通しでは、こちらが疲れて参ってしまう。  その昔、病にかかった老犬はいつの間にか姿を隠し、人目につかぬ所に死んだ。今はそうはいかぬ。必ず鎖につないで飼うように言われ、さもなくば一生を室内犬として過ごす。現代の犬は死に場所を選ぶことはできない。しかも、栄養バランスの良いペットフードを与えられ、予防注射などをしているから、長生きする。  今では20歳を越える長寿犬も珍しくない。人間で言えば優に百歳を超えている。こういう老犬は病気とは言っても大概は老衰で全ての臓器がおかしくなっているのだが、長年家族の一員として親しんできた間柄故、安楽死などとんでもないこと。残暑の中を飼主は一緒に苦しみながら、「いい子、いい子」と声をかけている。(水)

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