縁日の金魚と五年ともにあり     須藤 光迷

縁日の金魚と五年ともにあり     須藤 光迷 『この一句』  縁日などで掬ってきた金魚は「すぐに死ぬ」という一般的な印象があるようだ。金魚の生産地などでは「屑金魚」と呼ばれる一群で、売り物としての選別から外れたものだという。金魚掬い用ならまだしも、熱帯魚などの生餌用になるものもあるというから、金魚も楽ではない。  金魚掬い用になってもかなり辛い将来が待つ。餌は与えられず、乱暴に扱われているので、掬って家に持ち帰っても大方はすぐ死んでしまうのだ。しかし句会では「けっこう長生きする」という意見も相次いだ。いったん餌を食べ出せば、第二次大戦後の焼け跡派のようにしぶとく生き延びるらしい。  この句は詠み方に飾りや力みがなく、事実をそのまま述べただけである。「深刻ではないし、日常的なんだ」というコメントがあった。それでいて金魚との生活がこの後も淡々と続いて行く、という雰囲気が読み取れる。こんな句を作ってみたいと思うが、けっこう難しいかも知れない。(恂)

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出目金に留守番頼み落語会        大倉悌志郎

出目金に留守番頼み落語会        大倉悌志郎 『合評会から』(日経俳句会) ヲブラダ 出目金がユーモラスだ。うまく付けたなと思います。 正 出目金は留守番役にうってつけです(笑い)。これだけでも滑稽ですが、落語会に行くというので可笑しみが増してくる。「出目金」「留守番」「落語会」の組み合わせがうまい。 十三妹 三題噺みたいです。本日一番の句だと思いました。 定利 ちょっとふざけ過ぎと思うけど、やっぱり「出目金」がいい。 水牛 まんざら嘘でもなさそうだ(笑い)。軽い句ですね。 綾子 「落語会」が効いています。出目金のような雰囲気の噺家さんがいそうです。 悌志郎(作者) 初め「歌舞伎座へ」と作りました。ユーモアを持たせるつもりで「落語会」に変えてみて、「どうかな」と思っていたけれど…、意外に好評で驚いた(笑い)。             *           *  「おい、出目金。留守番頼むよ」なんて言いながら出て行ったのだろう。まさに落語の一場面。(恂)

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進めども壁ばかりなる金魚かな   流合研士郎

進めども壁ばかりなる金魚かな   流合研士郎 『この一句』  買って来た金魚をガラスの水槽に放つと、四面のガラス壁に鼻面をぶつけて死んでしまうことが多い。しかし、生き残った奴はかなりしぶとい。四面壁であることをちゃんとわきまえ、やわらかに顔を近づけては方向転換する。陶磁器の甕などで飼うと、最初から突き当たりのあることが分かるから、自然に回遊するようになる。ガラス鉢の場合も「目に見えない壁」のあることを学習して、自然にぐるぐる回るようのなる。  そしてある時、そういう金魚を庭に作った小さな池に放してやった。かなり育って、水槽が窮屈そうになったからである。小さいとは言え、池は水槽の何十倍もある。さぞかし気持ちよく泳ぐだろうと思っていたら、池の縁近くをくるくる回るばかりで一向に真ん中に泳ぎ出して行かない。己の世界はこれくらいと決めてかかっているようであった。  こっちに進んでも、あっちに進んでも壁。これは金魚に託した述懐の句でもあろうか。ただし、さらりと見たままを詠んで理屈めいたことを言っていないところがいい。(水)

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